日本の二大航空会社であるANA(全日空)とJAL(日本航空)。両社をあわせた売上高は日本の航空業界の91.8%を占めます。訪日外国人観光客やビジネス利用客の増加を背景に、追い風の吹くエアライン業界。今回は、そんな業界を引っ張るANA・JAL両社の財務分析を行っていきます。
PL(損益計算書データ)
JAL(日本航空) | ANA(全日空) | |
売上高 | 1兆4,872億円 | 2兆583億円 |
粗利益 | 4,120億円(27.7%) | 4,984億円(24.2%) |
営業利益 | 1,761億円(11.8%) | 1,650億円(8.0%) |
経常利益 | 1,653億円 | 1,566億円 |
税引前利益 | 1,562億円 | 1,540億円 |
当期純利益 | 1,551億円(10.4%) | 1,118億円(5.4%) |
ANAは売上高2兆円を突破し、トップラインではJALを大きく引き離しています。しかし、営業利益以下の数値は全てJALがANAを上回っており、当期純利益率に限って言えばANAの5.4%に対しJALは10.4%とほぼダブルスコアです。経営効率の観点では、JALに分があります。
両社の税引前利益には殆ど差がないにも関わらず、当期純利益では400億円近くの開きがあります。背景には、JALとANAの法人税等負担額の違いがあります。JALは、2010年に2兆円を超える負債を抱えて経営破綻に陥りました。同年巨額の赤字を計上したJALは、繰越欠損金の控除が受けられるのです。繰越欠損金制度とは、簡単に言うと、赤字を出した企業は数年間に渡って法人税の一部支払免除が受けられる仕組みのことです。
2019年3月期の税引前当期純利益に対する法人税等の支払金額の比率は、ANAの27.4%に比べ、JALはなんと0.7%。金額ベースではANA 421億円、JAL 10億円です。JALに対する繰越欠損金制度の是非には政財界から賛否の声が上がっているものの、少なくともそのインパクトが非常に大きいことが分かります。
図解・財務諸表比較
JALの豊富な手元資金(キャッシュ)
両社の大きな違いとして、手元資金の充実度が挙げられます。JALが4,400億円のキャッシュを保有しているのに対し、ANAは731億円に留まります。比率にすると約6倍にもなります。JALのキャッシュの使い道としては、設備投資の他に500億円の特別成長投資枠を設定し、中長距離LCC「ZIPAIR」等戦略的に投資を行っていくことが、JALグループの中期経営計画に明記されています。更に、株主還元策として配当性向の引き上げや自己株式取得(自社株買い)を進めていく計画が発表されています。
両社の有利子負債には8倍の差
もう一つ、両者の決定的な違いとして有利子負債の金額が挙げられます。2018年時点のデータでは、有利子負債は金額ベースでJALが約1,000億円に対し、ANAは約8,000億円と8倍もの開きがあります。上記の図表からも分かるように、ANAホールディングスは固定資産を支えるために有利子負債を有効に活用しています。自己資本比率はJAL 59.1%、ANA 40.2%で、長期的な安全性はJALに軍配があがります。もっとも、自己資本比率は一般に40%あれば十分とされています。
まとめ
日本の航空業界は2社寡占と言われて久しいですが、財務諸表を図解し同じ縮尺で並べることで、両者の持つ財務面の性格が浮かび上がってきました。経営破綻を経験したJALは、今では財務的に超が付くほどの優良企業になりました。繰越欠損金制度の効力が実質的に切れる2020年3月期は、JALにとっての試金石といえるかもしれません。